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【プレスリリース】青色に光るセルロースナノファイバーの開発に成功

~エマルションの界面吸着挙動などを観察できる新しいナノ素材~

本研究のポイント

?青色に光る性質を持つアミノ酸「アクリドン-2-イル-アラニン(Acd)」を、セルロースナノファイバーに化学的に結びつけ、水に分散する蛍光性ナノファイバーを開発しました。
?染色剤を使わず、Acd自体の蛍光を利用することで、油滴を取り囲むナノファイバーの様子を顕微鏡で直接観察することに成功しました。
?この技術により、分散挙動や微細構造の観察技術の発展や蛍光性CNF材料の開発などさまざまな応用が期待されます。

研究概要

uedbet体育_uedbet体育投注-彩客网彩票推荐 大学院uedbet体育_uedbet体育投注-彩客网彩票推荐の川村 出 教授の研究グループは、青色に光る性質を持つアミノ酸(Acd)を、植物由来のナノ繊維セルロースナノファイバー(CNF)に化学的に結合させることで、水中でも安定して使える蛍光性ナノ素材(Acd-CNF)の開発に成功しました。この新素材は、CNFが本来持つ「水への良好な分散性」「ゲルとゾルの両面の性質」を保持しており、さらに染色剤を加えることなく、素材自身が青色の蛍光を発するという性質を持ちます。この性質を活かし、油滴の表面にナノファイバーがどのように吸着しているかを直接観察できるという特長があります。また、油滴に加えた赤い蛍光物質との間で光エネルギーの移動が確認されるなど、界面での振る舞いを光で“見える化”する技術として高い可能性を示しました。
本研究成果は、高分子多糖類に関する専門誌Carbohydrate Polymer Technologies and Applicationsに受理され、オンライン版が2025年6月24日に公開されました。

研究背景

植物の細胞壁から得られるセルロースナノファイバー(CNF)は、セルロース繊維をナノスケールにまで解繊した、環境に優しい次世代素材です。CNFは、増粘性、軽量性、高強度といった多様な特性を有しており、化粧品の増粘剤、自動車部材、プラスチックの強化剤など幅広い分野での応用が検討されています。特に、TEMPO触媒酸化法[用語1]によって得られるTEMPO酸化型CNF(TOCNF)は、繊維幅が2-3 nmと非常に細く、水への良好な分散性やチクソトロピー性[用語2]、優れた乳化安定性を示すことから、注目されています。
近年では、CNFに蛍光発色団を共有結合させることで、分子間相互作用や物質の挙動を可視化する手法が注目されています。蛍光発色団は一般的に疎水性であり、TOCNF本来の水分散性やチクソトロピー性?といった性質が損なわれてしまう懸念があります。そのため、CNFの特性を維持しながら蛍光機能を付与するには、比較的小さな分子量で、かつ親水性官能基を有する蛍光発色団を設計?導入することが重要な課題となっています。

今回の成果

今回、uedbet体育_uedbet体育投注-彩客网彩票推荐 川村 出 教授、環境情報硏究院 金井 典子 助教らの研究グループは、蛍光アミノ酸「アクリドン-2-イル-アラニン(Acd)」に注目しました。Acdは、アクリドンと呼ばれる3環式の芳香族含窒素化合物をもつ剛直で安定かつコンパクトな構造で、さらに水中で非常に強い青色蛍光を示す蛍光発色団がアミノ酸側鎖に導入された形をしています。そのため、研究グループは、Acdを導入することで優れた蛍光性CNF(Acd-CNF)が得られると期待し、その構造?物性評価を行いました。
反応後のAcd-CNF水分散液は安定して明るい青色蛍光を示しました(図1(A))。固体核磁気共鳴分光法[用語3]等の構造解析によって、TOCNFとAcdが共有結合していることが分かりました。また、走査型電子顕微鏡観察により、Acd導入後もナノファイバー構造が損なわれず保持されていることが確認されました。
粘度測定では、Acd導入後もTOCNF特有のチクソトロピー性を保持していることが示されました(図1(B))。加えて、Acdの導入により、Acdと周囲の水やファイバーとの水素結合が形成され、ネットワーク構造がより密となり、粘度が増加するとともに、柔軟に変化する緩やかなゲル特性が得られました。
さらに、共焦点レーザー顕微鏡[用語4]を用い、Acd-CNFを含む水中油滴型ピッカリングエマルション中のナノファイバーの分布を可視化したところ(図1(C))、青色蛍光によりAcd-CNFが油滴表面に選択的に集まっている様子が観察されました。また、Acdからナイルレッド(油滴側染色剤)へのフェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)[用語5]が観察され、Acd-CNFが界面に吸着していることが光学的に裏付けられました。これらの結果は、CNF染色剤を用いずに界面挙動を直接観察できる新たな蛍光性CNF材料として、Acd-CNFの有用性を示すものです。本研究成果をまとめた論文は、高分子多糖類の専門誌であるCarbohydrate Polymer Technologies and Applications誌に2025年6月24日にオープンアクセスで公開されました。

図1.(A)生成したAcd-CNF, TOCNF水分散液の可視光, UV光照射下での様子(B)Acd-CNFを注射器から押し出し、チクソトロピー性を目視観察した様子(C)Acd-CNFを用いた水中油滴型ピッカリングエマルションの共焦点レーザー顕微鏡観察像。合併図において水-油滴界面がはっきりと観察されている。
図1.(A)生成したAcd-CNF, TOCNF水分散液の可視光, UV光照射下での様子(B)Acd-CNFを注射器から押し出し、チクソトロピー性を目視観察した様子(C)Acd-CNFを用いた水中油滴型ピッカリングエマルションの共焦点レーザー顕微鏡観察像。合併図において水-油滴界面がはっきりと観察されている。

今後の展望

本研究で得られたAcd-CNFは、水中環境下でも強く安定して発光するアクリドン基の特性を活かし、蛍光可視化技術のさらなる高度化に寄与することが期待されます。蛍光分子をセルロースナノファイバーに共有結合させることで、ナノスケールの分散状態や挙動を高解像度かつ長時間安定的に追跡可能な新たな観察手法が確立されました。Acd-CNFによる直接観察の利点は、エマルション系の不安定化メカニズムの解明や界面動態解析への応用に加え、トレーサビリティ機能による安全性評価や環境応答材料の可視化評価による医療、環境センシングにも展開可能です。さらに、Acd-CNFのチクソトロピー性やゲル形成能といった物理特性を活かすことで、蛍光機能をもつバイオベース材料としてのプリンティング材料への応用も期待されます。

謝辞

本研究は、JST共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT) リスペクトでつながる「共生アップサイクル社会」共創拠点(JPMJPF2111)、 CREST(JPMJCR21B2)および科研費 若手研究(JP24K17792)、(JP25K18276)、特別研究員奨励費(JP22KJ1398)、研究活動スタート支援(JP24K23119)、基盤研究(B)(JP23K28264)、基盤研究(C)(JP22K05509)、(JP25K08975)、学術変革領域研究(A)(JP21H05229)などの支援を受けて実施されたものです。

用語解説

[用語1]
TEMPO触媒酸化法:TEMPOは、2,2,6,6テトラメチルピペリジン-1-オキシルと呼ばれる常温常圧で安定な有機ニトロラジカル。触媒量のTEMPOを含む水溶液中でセルロースを反応させ、軽微な解繊処理をすることでセルロースナノファイバーを生成することができる。2006年に東大の磯貝 明特別教授、齊藤 継之教授らの研究チームが、結晶性のセルロースミクロフィブリルの表面でカルボキシル化されていることを見出し、静電的な反発により軽微な物理的処理でセルロースをナノ化できることを報告した。

[用語2]
チクソトロピー性:静置状態で高粘度?ゲル状態の溶液に、せん断応力を加えると粘度が下がり流動化し、せん断をやめると再びゲル状態に戻る性質。

[用語3]
固体核磁気共鳴分光法:強い磁場中に置かれた物質の分子を構成する原子核が有している核スピンの挙動を精密に観測することによって、原子核の周りの電子状態を反映した 核磁気共鳴(NMR)信号を得ることができる。このNMR信号が化学的な結合状態を知る手がかりになるため、様々な分子構造を調べることができる構造解析技術である。特に、固体核磁気共鳴分光法は試料状態に依存することが少ないため、化学修飾が施されたセルロースナノファイバーにおいても解析が可能。

[用語4]
共焦点レーザー顕微鏡:レーザー光を使って試料の特定の焦点面だけを高解像度で観察できる顕微鏡である。本研究のような蛍光標識した高分子の試料中での分布や局在を調べることができる。

[用語5]
フェルスター共鳴エネルギー移動:蛍光を発するエネルギーの高い状態にある分子から、別な蛍光分子にエネルギーが移動する現象をフェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)と呼ぶ。

論文情報

掲載誌 Carbohydrate Polymer Technologies and Applications, 11, 100917 (2025)
タイトル Blue-fluorescent cellulose nanofibers grafted with acridon-2-yl-alanine (アクリドン-2-イル-アラニンを修飾させた青色蛍光セルロースナノファイバー)
著者 Yuto Ito, Daisuke Sato, Noriko Kanai, Azusa Kikuchi, Izuru Kawamura* (伊藤 佑斗、佐藤 大輔、金井 典子、菊地 あづさ、*川村 出)
DOI https://doi.org/10.1016/j.carpta.2025.100917新しいウィンドウが開きます

資料

研究者プロフィール

川村 出新しいウィンドウが開きます
大学院uedbet体育_uedbet体育投注-彩客网彩票推荐 機能の創生部門 教授

金井 典子新しいウィンドウが開きます
大学院環境情報研究院 人工環境と情報部門 助教

お問い合わせ先

大学院uedbet体育_uedbet体育投注-彩客网彩票推荐 機能の創生部門 教授 川村 出
メールアドレス: kawamura-izuru-wx ynu.ac.jp

(担当:リレーション推進課)


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